金星
金星
太陽系の太陽に近い方から二番目の惑星である。
地球型惑星であり、太陽系内で大きさと平均密度が最も地球に似た惑星であるため、「地球の姉妹惑星」と表現されることがある。
また、太陽系の惑星の中で最も真円に近い公転軌道を持っている。
地球から見ると、金星は明け方と夕方にのみ観測でき、太陽、月についで明るく見える星であることから、
明け方に見えるのが「明けの明星」、夕方に見えるのが「宵の明星」として別々に扱われていた。
これは金星が地球よりも太陽に近い内惑星であるため、太陽からあまり離れず、太陽がまだ隠れている薄暗い明け方と夕刻
のみに観察できるためである。最大離角は約47度と、水星の倍近くあるため、最大離角時には日の出前や日没後3時間程度眺
めることができる。
パイオニア・ヴィーナス1号による金星の雲
金星には二酸化炭素を主成分とし、わずかに窒素を含む大気が存在する。大気圧は非常に高く地表で約90気圧ある
(地球での水深900mに相当)。膨大な量の二酸化炭素によって温室効果が生じ、地表温度の平均で400℃、
上限では 500℃に達する。温室効果のため、金星の地表は太陽により近い水星の表面温度よりも高くなっている。
金星は水星と比べ太陽からの距離が倍、太陽光の照射は75% (2,660 W/m2) である。金星の自転は非常にゆっくりなもの
(自転と公転の回転の向きが逆なので金星の1日はおよそ地球の117日)であるが、熱による対流と大気の慣性運動のため、
昼でも夜でも地表の温度にそれほどの差はない。大気の上層部の風が4日で金星を一周していることが、
金星全体へ熱を分散するのをさらに助けている。
雲の最上部では時速350kmもの速度で風が吹いているが、地表では時速数kmの風が吹く程度である。
しかし金星の大気圧が非常に高いため、地表の構造物に対して強力に風化作用が働く。さらに二酸化硫黄の雲から降る硫酸の雨が
金星全体を覆っているが、この雨が地表に届くことはない。その雲の頂上部分の温度は?45℃であるが、
地表の平均温度は464℃であり、わかっている限りでは地表温度が400℃を下回っていることはない。
一見したところ、金星大気と地球大気は全くの別物である。しかし両者とも、かつてはほとんど同じような大気から成っていたと
する説がある。この説によると、太古の地球と金星はどちらも現在の金星に似た濃厚な二酸化炭素の大気を持っていた。
惑星の形成段階が終わりに近づき大気が冷却されると、地球では海が形成されたため、そこに二酸化炭素が溶け込んだ。
二酸化炭素はさらに炭酸塩として岩石に組み込まれ、地球大気中から二酸化炭素が取り除かれた。
金星では海が形成されなかったか、形成されたとしてもその後に蒸発し消滅した。そのため大気中の二酸化炭素が取り除かれず、
現在のような大気になった。
もし地球の地殻に炭酸塩や炭素化合物として取り込まれた二酸化炭素をすべて大気に戻したとすると、
地球の大気は約70気圧になると計算されている。また、成分は主に二酸化炭素で、これに1.5%程度の窒素が含まれるものになる。
これは現在の金星の大気にかなり似たものであり、この説を裏付ける材料になっている。
一方で、地球と金星の大気の違いは地球の月を形成したような巨大衝突の有無によるという考え方があるが、
金星の地軸の傾きの原因は巨大衝突だという説もあるため、これらは両立しない。
また、地球に生命が誕生した、という事実も見逃すべきではない。なぜなら、地球に生命が誕生していなければ、
金星のような姿になっていた、という仮説も存在するからである。この説によれば、
地球では海が形成されたため、そこに二酸化炭素が溶け込んだ。二酸化炭素はさらに炭酸塩として岩石に組み込まれ、
地球大気中から二酸化炭素が取り除かれた。だが、生命が誕生し、微生物によって二酸化炭素の吸収及び固定が進まなければ、
海が形成されたとしても、温室効果のため後に蒸発し消滅した可能性がある。結果、海中ならびに岩石中の二酸化炭素が再び放出され、
金星のような大気になっていたとも考えられる。
さらに生命がなければ植物による光合成も起こり得なかった。結果、大気中に酸素が放出される事もないので、
地球上に於いて冷却効果による寒冷化は起こらなかった。もちろん、オゾン層も形成されないので陸上に生命が進出する事もなかった。
二酸化炭素の固定に伴う大気中の二酸化炭素の減少は、多細胞生物が出現する古生代に活発になる。
が、生命が地球上にいなければ、このような変化は起こりえなかった。それどころか、現在に至るまで、
金星のような大気を持ったまま何の変化も起こらなかった事も考えられる。
このように、生命誕生がなければ、金星と地球はほぼ同じ姿になっていたとも考えられている。
金星大気の上層部には4日で金星を一周するような強い風が吹いている。この風は自転速度を超えて吹く風という意味で
スーパーローテーションと言われる。風速は秒速100mに達し、金星の自転の実に40倍の速さを持っていることになる。
このことが実際に確かめられるまでは、昼の面で暖められた大気が上昇して夜の面に向かい、そこで冷却して下降するという
単純な循環の様式が予想されていた。この現象は多くの人々の興味を引くこととなり様々な理論が提示されてきたが、
未だに解明には至っておらず、金星最大の謎の一つとされている。
金星の赤道傾斜角は178度である。即ち、金星は自転軸がほぼ完全に倒立しているため、他の惑星と逆方向に自転していることになる。
地球など金星以外の惑星では太陽が東から昇り西に沈むが、金星では西から昇って東に沈む。
金星の自転がなぜ逆回転をしているのかはわかっていないが、おそらく大きな星との衝突の結果と考えられている。
また、逆算すると金星の赤道傾斜角は、2度ぐらいしか傾いておらず、自転軸が倒立しているとは言え、ほぼ垂直になっていることになる。
このため、地球などに見られるような、気象現象の季節変化はほとんどないと推測されている。
金星の自転は、地球との会合周期とシンクロしており、最接近の際に地球からはいつも金星の同じ側しか見ることができない
(会合周期は金星の5.001日にあたる)。これが潮汐力の共振によるものなのか、単なる偶然の一致なのかについてもよくわかっていない。
金星はきわめて自転が遅いため、回転楕円体ではなく球形となっている。しかしながら、地表には凹凸があり最も高い白い部分は
黒で示した平均半径 (6,052km)、いわば「標高0m」から約12km程度持ち上がっている。経度0度、北緯65度の地点である。
白と赤、黄色、緑はこの順で高く、青は標高0m未満の部分であり、最大1.5km窪んでいる。金星表面には地球にある大陸に似て大きな
平野を持つ高地が3つ存在する。イシュタル大陸はオーストラリア大陸ほどの大きさで北側に位置する。高さ11kmのマクスウェル山を
含むラクシュミ高原などがある。南側の大陸はアフロディーテ大陸と呼ばれ、南アメリカ大陸ほどの大きさである。
さらに南の南極地域にはラーダ大陸がある。
クレーターには各国語の女性名が付けられている。日本語および日本人に由来するものとしては、晶子(与謝野晶子)、
千代女(加賀千代女)、林(林芙美子)、卑弥呼、市川(市川房枝)、政子(北条政子)、吉岡(吉岡彌生)、ふきこ、
ひろみ、いさこ、まりこ、なみこ、のりこ、れいこ、せいこ、やすこ、ようこ、などがある。
有名な金星表面の立体画像としてマゼランが観測したデータに基づくものがある。しかしこの画像は、
レーダーによって観測された地形データに着色し起伏を10倍に強調したコンピューター画像で、
実際の金星の地表の様子からかけ離れたものであるので注意が必要である。実際の金星の表面は地球や火星と比較するとむしろ
起伏に乏しいとされる。
明けの明星公転軌道が地球より内側にある金星は、天球上では太陽の近くに位置することが多く、
最大離角は約47度、最も見かけ上の明るさが明るくなるときの離角は約40度である。普通はそれでも太陽の強い光に紛れて
金星を肉眼で確認することは簡単ではないが、夜明けや夕暮れ時など、太陽が地平線の下に隠れて空が暗くなっている間に、
金星が地平線より上に現れていることがある。その最大光度は-4.87等で、1等星の約170倍の明るさになり、
まだ明るさの残る空にあってもひときわ明るく輝いて見える。その夕方の西天に見えるものを「宵の明星」、
明け方の東天に見えるものを「明けの明星」という。
その神秘的な明るい輝きは、古代より人々の心に強い印象を残していたようで、それぞれの民族における神話の中で象徴的な存在の
名が与えられていることが多い。また地域によっては早くから、明けの明星と宵の明星が(金星という)同一の星であることも
認識されていた。
金星では「新月」形と「半月」形の間で最も明るくなる。これは軌道の(地球軌道に対する相対的な)大きさに関係しており、
水星とは異なる。
金星の観測モデル。満ち欠けがない外合時に観測上の視直径は最小となり、地球に最も近づく内合時(の直前)に視直径が最大となる。
地球から見た金星は、月のような満ち欠けの相が見られる。これは内惑星共通の性質で、水星も同じである。内合の時に「新金星」、
外合の時に「満金星」となる。内合のときに完全に太陽と同じ方向に見える場合、金星の日面通過(あるいは太陽面通過)と
呼ばれる現象がまれに起こる。最大離角の時には半分欠けた形になる。西方最大離角の時には日の出前に最も早く上り、
東方最大離角の時には日没後に最も遅く沈む。
金星が最も明るく輝く時期には、金星の光による影ができることがある。オーストラリアの砂漠では地面に映る自分の影が見えたり、
日本でも白い紙の上に手をかざすと影ができたりする。なお、過去には SN 1006 のような超新星が地球上の物体に影を生じさせた
記録も残っているが、現在観測できるそれほど明るい天体は太陽、月、金星、天の川のみである。
人類と金星 [編集] 歴史と神話 [編集]欧米ではローマ神話よりウェヌスと呼ばれている。メソポタミアでその美しさ
(明るさ)故に美の女神イシュタルの名を得て以来、ギリシャではアフロディーテなど、世界各国で金星の名前には女性名が当
てられていることが多い。天使の長にして悪魔の総帥とされたルシファーも元々は明けの明星の神格化である。
日本でも古くから知られており、日本書紀に出てくる天津甕星(あまつみかぼし)、別名香香背男(かがせお)
と言う星神は、金星を神格化した神とされている。時代が下って、平安時代には宵の明星を「夕星(ゆうづつ/ゆうつづ)」
と呼んでいた。清少納言の随筆「枕草子」第254段「星はすばる。ひこぼし。ゆふづつ。よばひ星、すこしをかし。」
にあるように、夜を彩る美しい星の一つとしての名が残されている。
ヨーロッパでは、明けの明星の何にも勝る輝きを美と愛の女神アプロディーテーにたとえ、そのローマ名ウェヌス(ヴィーナス)
が明けの明星すなわち金星を指す名となった。
キリスト教においては、ラテン語で「光をもたらす者」ひいては明けの明星(金星)を意味する言葉「ルシフェル」は、
他を圧倒する光と気高さから、唯一神に仕える最も高位の天使(そして後に地獄の闇に堕とされる堕天使の総帥)の名として与えられた。
仏教伝承では、釈迦は明けの明星が輝くのを見て真理を見つけたという。また弘法大師空海も明けの明星が口中に飛び込み悟りを
開いたとされる。
アステカ神話では、ケツァルコアトルがテスカトリポカに敗れ、金星に姿を変えたとされている。
金星は七曜・九曜の1つで、10大天体の1つである。
西洋占星術では、金牛宮と天秤宮の支配星で、吉星である。妻・財産・愛・芸術を示し、恋愛、結婚、アクセサリーに当てはまる。
女性を象徴する手鏡を図案化したものが、占星術・天文学を通して用いられる。 また、転じて女性を示すシンボルとしても利用されている。
近代における金星像 [編集]近代の科学者は、金星の姿を推測し続けた。ノーベル賞受賞者であるスヴァンテ・アレニウスは、
金星は石炭紀の湿原のようであると主張した。これは当時、相当程度支持されたが、1920年代には、
光学分析により金星の大気に大量の水が含まれてはいないことが明らかになった。それでもなお、
石炭紀的な金星像を支持する学者も少なからずいた。